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親の介護で仕事を辞める?「介護離職」で本当に家計は楽になるの?

親の介護で仕事を辞める?「介護離職」で本当に家計は楽になるの?

親の介護が必要になったとき、「仕事を続けながら介護するのは無理」「施設に入れるとお金がかかるから、自分が仕事を辞めて介護した方がよい」と考える方も多いかもしれません。

しかし、介護離職を「介護費を抑える方法」として選ぶのであれば、かなり慎重な検討が必要です。施設介護には費用がかかりますが、仕事を辞めれば給与収入を失います。さらに厚生年金への加入期間、勤務先の退職金や企業年金、将来の昇給、資産形成などにも影響が広がります。

介護費だけを比較するのではなく、仕事を辞めたらいくら失うのかまで含めて家計全体で比較する。 介護離職を決める前に、ぜひ確認してほしい視点です。

介護離職した人の約4人に3人は女性

総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、2022年に介護・看護を理由として過去1年間に前職を離職した人は10.6万人でした。男性は2.6万人、女性は8.0万人です。つまり、介護離職者の約75%を女性が占めています。

さらに厚生労働省は2026年9月10日の特集で、離職せず家族を介護しながら働いている人も約365万人に達し、この10年間で約70万人増えたとしています。

介護離職は、一部の家庭だけに起きる特殊な問題ではありません。親が高齢になれば、働いている本人が突然直面する可能性があります。そして現実には、その影響を女性がより強く受けています。

「施設は高いから仕事を辞める」は本当に家計に有利?

介護が必要になった際、自宅で家族が介護すればお金がかからず、施設を利用すると高額になるイメージがあります。しかし、在宅介護にも費用はかかります。

生命保険文化センターの2024年度「生命保険に関する全国実態調査」によると、介護にかかる月額費用は、在宅が平均5.3万円、施設が平均13.8万円です。確かに施設介護の方が高額ですが、その差は平均8.5万円です。

ここで「仕事を辞めた場合に失う収入」も加えて考えてみます。

たとえば、手取り月収30万円の女性が親の介護に直面したとします。施設介護なら平均13.8万円の介護費がかかります。一方、仕事を辞めて在宅介護へ切り替えれば介護費は平均5.3万円まで下がりますが、毎月30万円の給与収入を失います。

家計への影響を単純化すると、

働き続けて施設介護:13.8万円/月

離職して在宅介護:収入減30万円+介護費5.3万円=35.3万円/月

となります。

仕事を辞めれば施設介護との差額8.5万円を節約できますが、そのために30万円の収入を失っています。差し引けば、離職した方が家計への影響は月21.5万円大きくなる計算です。

同調査による介護期間の平均は55.0ヶ月、4年7ヶ月です。仮にこの状態が55ヶ月続けば、

21.5万円×55ヶ月=1,182.5万円

もの差になります。

もちろん介護費は要介護度、利用するサービス、施設の種類、地域などによって大きく異なります。給与も手取り額や働き方によって違います。そのため1,182.5万円を一般化はできません。しかし、「施設は高いから仕事を辞めた方が家計負担は小さい」と単純には判断できない点は、この比較からも分かります。

月収5万円なら計算結果は逆になる

では、パート勤務で手取り月収5万円だったらどうでしょうか。同じ平均介護費を使うと、

働き続けて施設介護:13.8万円/月

離職して在宅介護:収入減5万円+介護費5.3万円=10.3万円/月

となり、今度は離職して在宅介護をした方が月3.5万円少なくなります。

月収30万円なら離職による家計への影響が月21.5万円大きくなり、月収5万円なら逆に3.5万円小さくなる。同じ「親の介護のために仕事を辞める」という選択でも、本人の収入によって家計への影響はまったく違います。

だからこそ、「親だから自分で介護したい」「施設は高い」といった感情やイメージだけで離職を決めるのではなく、現在の収入、介護費、利用できる公的制度、離職後の生活まで数字に置き換えて比較する必要があります。

単身女性は「親の年金があるから大丈夫」に要注意

さらに慎重に考えたいのが、親と暮らしている単身者です。

たとえば50代の単身女性が親の介護のために仕事を辞め、本人の給与がなくなっても、親の年金と預貯金を含めた世帯収入で当面の生活を維持できるケースを考えてみます。

この状態では、介護中の家計だけを見ると生活できているように見えます。しかし、親が亡くなれば状況は一変します。公的年金は受給者本人の死亡によって受給権がなくなり、原則として亡くなった月分までで終了します。一定の遺族には遺族年金が支給される場合がありますが、成人した子が親の老齢年金をそのまま引き継ぐ制度ではありません。

つまり、親の年金に生活費を依存しながら本人が介護離職していた場合、親の死亡によって「本人の給与収入」と「親の年金収入」の両方がない状態に直面する可能性があります。

しかも50代で数年間仕事から離れれば、以前と同じ条件で再就職できるとは限りません。介護している期間だけ家計が維持できるかではなく、介護が終わった後に自分の生活をどう維持するのかまで考える必要があります。

介護離職で失うのは「いまの給与」だけではない

会社員が仕事を辞めれば、給与だけではなく厚生年金への加入も原則として終了します。老齢厚生年金の報酬比例部分は、2003年4月以降の期間について、原則として平均標準報酬額に5.481/1000と加入月数を掛けて計算します。

仮に標準報酬額30万円、賞与なしとして5年間厚生年金への加入期間が短くなったケースを単純計算すると、

30万円×5.481/1000×60ヶ月=98,658円/年

となります。

65歳から20年間受け取るだけでも単純合計で197万円を超えます。実際の年金額は再評価率などが関係するため、この金額がそのまま将来の減額額になるわけではありませんが、離職の影響が現役時代だけで終わらない点は理解しておきたいところです。

さらに勤務先に退職金制度や企業年金があれば、勤続年数の短縮によって受取額が減る可能性があります。離職中はNISAやiDeCoなどへ回す余裕も小さくなりやすく、再就職後の給与が以前より下がれば、その後の資産形成にも影響します。

介護離職の本当のコストは、「月収30万円×離職した月数」だけでは測れません。

(参考:公的老齢年金の基本的な仕組みはこちらでも解説しています)

介護休業の93日は「自分で介護し続ける93日」ではない

仕事と介護の両立が難しくなったら、退職届を書く前に勤務先の制度を確認してください。育児・介護休業法では、対象家族1人につき3回、通算93日まで介護休業を取得できます。また、一定の要件を満たす雇用保険の被保険者には、介護休業期間中、原則として休業開始時賃金日額×支給日数×67%の介護休業給付金が支給されます。

たとえば休業前の平均賃金が月30万円程度で、休業期間中に勤務先から賃金が支払われないケースでは、厚生労働省の例で介護休業給付金は月20.1万円程度ですが、重要なのは93日間を「仕事を休んで自分が親を介護する期間」とだけ考えない点です。

介護認定の申請、ケアマネジャーとの相談、介護サービスの選択、家族間の役割分担、施設の検討、勤務先との働き方の調整など、自分が仕事へ戻った後も介護を継続できる体制を整える期間として活用できます。また、介護休暇、短時間勤務、フレックスタイム、時差出勤、所定外労働の制限など、介護休業以外にも仕事を続けるための制度があります。2025年4月からは、介護離職防止を目的として、介護に直面した労働者への制度の個別周知・意向確認や、利用しやすい雇用環境の整備なども事業主の義務になっています。

親の介護が始まったら、まず「辞めない方法」を探す

親の介護は、いつ始まり、どのくらい続くのか予測が難しい問題です。生命保険文化センターの調査では介護期間は平均4年7ヶ月ですが、数日で親御さんが亡くなり介護が終了するケースもあれば、介護期間が10年に及ぶケースもあります。

数年間に及ぶ可能性がある介護を、家族一人が仕事を辞めて抱え込む選択には、経済面だけでなく肉体的・精神的な負担も伴います。特に一定以上の収入がある人ほど、「施設介護は高い」という理由だけで離職を選ぶのは慎重であるべきです。施設や介護サービスへお金を支払っても仕事を続けた方が、家計全体では負担を抑えられるケースがあります。

そして介護離職者の約4人に3人が女性である現状を考えれば、これは女性の老後にもつながる問題です。介護のために現役時代の収入を失い、自分自身の厚生年金や退職金、資産形成まで減らしてしまえば、親の介護が終わった後に今度は自分の老後資金が不足する可能性もあります。

親の介護が必要になったとき、最初に考える選択肢を「仕事を辞める」にしないでください。介護サービスを使う。勤務先の制度を使う。介護休業を使って体制を整える。そして、自分の収入をできるだけ残す。介護費だけではなく、失う給与、将来の年金、退職金、資産形成、そして介護が終わった後の自分自身の生活まで含めて比較する。

介護離職は、それでも仕事を続けられないと判断したときの最後の選択肢として考えても遅くありません。

【出典と確認日】

・総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」
・厚生労働省 Webマガジン「働きながら育児・介護を両立」(2026年9月10日)
・厚生労働省「介護休業制度特設サイト」
・厚生労働省「Q&A~介護休業給付~」
・厚生労働省「育児・介護休業法について」
・公益財団法人生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」(2024年度「生命保険に関する全国実態調査」)
・日本年金機構「報酬比例部分」(2026年4月1日更新)
・日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」(2026年4月1日更新)

確認日:2026年9月30日

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