人生において「貯蓄」という負担をいつ引き受けるのか
2026/08/12|ライフプラン
「楽な老後」のために、現役時代をどこまで我慢する?
住宅ローンの返済期間を考える際、「できるだけ早く返したほうがよい」「定年までには完済したほうが安心」といった話をよく耳にします。
確かに、65歳を迎えた時点で住宅ローンがなく、老後の住居費負担が小さければ安心です。支払う利息も少なくなりますから、住宅ローンだけを見れば、早く返し終えるほど有利です。
貯蓄についても同じです。「若いうちからしっかり貯蓄しておけば、老後の生活が楽になる」これも間違いではありません。
ただし、住宅ローンの返済や老後資金の準備を考えるときには、もう一つ重要な視点があります。
それは、「将来のために、現役時代をどこまで我慢するのか」という視点です。
収入に十分な余裕のある家庭であれば、住宅ローンを短期間で返済しながら老後資金も十分に準備し、旅行や趣味を楽しみ、子どもの教育や家族との思い出にもお金を使えるでしょう。
しかし、多くの家庭では使えるお金に限りがあります。たとえば住宅ローンを早く返すために毎月5万円を追加返済し、さらに老後資金として毎月5万円を積み立てれば、将来の家計は確かに楽になります。一方で、その毎月10万円は、現役時代に使う選択肢もあった10万円です。
住宅ローンや貯蓄では、「いくら払うか」「いくら残すか」だけではなく、いつお金を使うのかという視点も欠かせません。
お金には「使うのに適した時期」もある
お金を使うことで得られる価値は、人生のどの時期に使うかによって変わります。20代、30代、40代、50代と年齢を重ねるなかで、その時期だからこそできる経験があります。
旅行へ行く。趣味を楽しむ。新しいことに挑戦する。家族や友人との時間を過ごす。子どもがいる家庭であれば、教育や進学、家族での経験にお金を使う時期もあります。
一方、子どものいない家庭であっても、仕事や生活に比較的自由が利き、心身ともに活動しやすい時期だからこそ、お金を使う価値が高い場面は少なくありません。
また、住宅を購入する年代もさまざまです。20代で住宅ローンを組む人もいれば、30代、40代で購入する人もいます。したがって、「何歳だから、こうお金を使うべき」と一律には決められません。
重要なのは、人生には、その時期を逃すと後から同じようには取り戻しにくい経験があるという点です。
住宅ローンの返済期間を短くする
ところが、「老後を楽にしたい」「住宅ローンを早く終わらせたい」という思いが強すぎると、現在の支出を必要以上に抑えてしまう可能性があります。
その結果、65歳以降の家計は楽になったとしても、振り返ってみれば、心身ともに活動しやすく、仕事や家族、趣味などに多くの選択肢を持てた時期に我慢を集中させていたという人生にもなり得ます。
住宅ローンの返済期間を長くする
反対に、住宅ローンの返済期間を長く設定して毎月返済額を抑え、その分を旅行や趣味、教育、自己投資、家族との時間など、現在の生活を充実させるために使う考え方もあります。
もちろん、この考え方にも代償があります。返済期間を長くすれば支払利息は増えます。また、住宅ローンが定年後まで残れば、その分だけ老後の家計にも返済負担が続きます。
極端な選択ではなく適正な配分
だからこそ大切なのは、「今を楽しむか、老後に備えるか」という二者択一ではなく、人生のそれぞれの時期に、どの程度のお金を配分するのかを考える。
住宅ローンの返済期間を決める際にも、この視点が必要だと考えています。

住宅ローンの返済期間は「人生のどこに負担を置くか」
住宅ローンの返済期間というと、一般的には「総返済額」や「支払利息」で比較されます。35年返済より45年返済のほうが利息は多くなり、繰上返済をすれば利息も減らせます。したがって、できるだけ早く返済したほうが得である――。
計算としては正しいでしょう。しかし、住宅ローンは数十年間にわたって家計に影響を与えます。そのため、返済期間を考える際には利息だけではなく、人生のどの時期に家計負担を置くのかという視点も必要です。
現役時代の返済額を増やして、老後の負担を軽くするのか。それとも、現役時代の返済額を抑えて生活に余裕を持たせ、その代わりに一定の返済を老後にも残すのか。これは単なる住宅ローン商品の選択ではありません。人生全体のお金の配分をどう考えるかという問題です。
もちろん、「老後まで住宅ローンを残しても構わない」と無条件に勧めているのではありません。定年後も住宅ローンを返済するなら、その時点で想定される収入、年金額、金融資産、住宅ローン残高などを確認し、無理なく返済できるかをあらかじめ検証しておく必要があります。
また、老後まで返済を残すのであれば、返済当初の負担は大きいものの、返済が進むにつれて毎月の返済額が小さくなる元金均等返済を選択する方法もあります。現役時代の収入が多い時期には返済額を多くし、収入が減少する老後には返済額を小さくできるため、「人生のどの時期に家計負担を置くか」という観点からも検討する価値があります。
重要なのは、何となく「住宅ローンは定年までに返すものだから」とか「最長返済期間が50年だから」と返済期間を決めるのではなく、自分たちは人生のどの時期にお金を使いたいのか、その選択によって将来の家計がどう変わるのかまで理解したうえで決めることです。
これこそが、本来のライフプランではないでしょうか。

「最後にいくら残るか」だけが家計の正解ではない
そして、この考え方はキャッシュフロー表にも当てはまります。私は、キャッシュフロー表を作成する目的は、単純に人生の最後に最も多くのお金が残るプランを探すためではないと考えています。
たとえば、人生の最後に3,000万円残るプランと1,500万円残るプランがあったとして、3,000万円残る人生のほうが必ず豊かだったとは言い切れません。同じように、住宅ローンの支払利息を500万円減らした人生が、500万円多く支払った人生より必ず優れているとも限りません。
仮に500万円多く利息を支払ったとしても、その代わりに現役時代の家計に余裕が生まれ、旅行や趣味、自己投資、家族との時間など、自分たちにとって大切な経験にお金を使えたのであれば、その500万円には別の価値があります。
もちろん、将来必要となるお金まで現在使ってしまえば、単なる浪費になってしまいます。だからこそ、必要な老後資金を確保し、住宅ローンを含めて将来も家計が破綻しない状態をつくる。そのうえで、使いたい時期に使えるお金も確保する。住宅ローンの返済期間も、貯蓄も、資産運用も、本来はそのための手段です。
「利息を最も少なくする」「貯蓄残高を最も多くする」といった一つの数字だけを最大化するのではなく、人生全体を見渡しながら、必要な時期に必要なお金を配分していく。
私は、それが家計を最適化するという意味だと考えています。

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